商品が持つストーリーまで伝わる菓子作りを後藤製菓 [ 大分県臼杵市 ]
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大分県を代表する銘菓『臼杵煎餅』のほか、臼杵の有機生姜を使ったジンジャーパウダーやオーガニックシロップなど自社製品を多数製造・販売。自社工場を完備していることから、OEM・ODMの依頼も増えています。伝統を重んじながらも、時代に即した商品を次々と開発。長く愛される商品づくりにも積極的に取り組んでいます。
代表取締役 後藤亮馬さん
伝統菓子「臼杵煎餅」を、“守るために、変わる”。
江戸時代の保存食が起源とされる臼杵煎餅。その昔、臼杵市が生姜の一大産地であったことから、味付けに生姜を使ったのがはじまりでした。以前は多くの製造販売店がありましたが、現在残っているのは臼杵市内に7社。そのひとつ、国宝臼杵石仏の隣に工場と直売所を構える『後藤製菓』は、創業102年の老舗です。
今も臼杵商店街に新町店として残る小さな店舗で飴屋からスタートし、ほどなくして臼杵煎餅の製造をはじめました。小麦を主原料にした煎餅に、生姜と砂糖でつくる蜜を棕櫚(しゅろ)と呼ばれる刷毛で職人が一枚一枚ていねいに塗ることで、あの特徴的な凹凸が描かれます。生姜のピリッとした風味と、やさしくてほんのりとした甘さ。大分県民なら誰もが一度は食べたことのある伝統菓子です。
大学卒業後、営業担当として入社し、今年5代目を受け継いだ後藤亮馬社長。入社当初は、自分と消費者の臼杵煎餅に対するとらえ方のギャップを痛感したといいます。「私にとっては毎日当たり前に食べていたお菓子ですが、実際に営業してみると、購入してくださるお客様の大半が年配の方だということに気づかされました。時代の流れとともに消費者も一緒に年齢を重ね、臼杵煎餅はいつのまにか大人のお菓子になっていたんです」。年配者にとっては小さい頃から食べているなじみの味であるのに対し、若年層は「知っているけど食べたことがない」、「そもそも臼杵煎餅を知らない」という声も多かったのです。
臼杵煎餅は、誕生の経緯や国宝臼杵石仏との関係性、何よりも大分県臼杵市を代表する銘菓であることから、単純に『昔からある懐かしい菓子』ではなく、『これからも後世へ継承していくべき伝統菓子』であるととらえていた後藤社長。
これは、父である4代目の思いでもありました。「砂糖と生姜汁で味付けした定番しかなかった臼杵煎餅ですが、4代目が初のアレンジ商品として黒糖味を作りました。他にも“堅くて食べられない”という声に応えて軽い食感の煎餅を開発したのも4代目。その背中を見てきたから、変わることには抵抗がありませんでした」(後藤社長)。先代たちが築いてきた歴史をこれから先も残していくために。“守るために、変わる”という思いがさらに加速していったのです。
江戸時代の保存食が起源とされる臼杵煎餅
小麦を主原料にした煎餅に、生姜と砂糖でつくる蜜を棕櫚(しゅろ)と呼ばれる刷毛で職人が一枚一枚ていねいに塗ることで、あの特徴的な凹凸が描かれる
臼杵煎餅は、単純に『昔からある懐かしい菓子』ではなく、『これからも後世へ継承していくべき伝統菓子』である
100周年の節目に誕生した新ブランド「IKUSU ATIO」による展開
“守るために、変わる”の取り組みのひとつが、2019年に立ち上げた新ブランド『IKUSU ATIO』です。逆から読むと『OITA USUKI=大分臼杵』。100周年を老舗のスタートとしてとらえ、さらなる発展を目指して誕生しました。
ベースはそのままに、大分県産有機生姜100%の生姜を使用した特別な一枚は、きな粉×生姜、かぼす×生姜、生姜×チョコレート(冬季限定)の4種の味を展開。ひとくちサイズに変え、パッケージも一新しました。
『百寿ひとひら』という商品名で販売をはじめたところ、新たな客層が手に取るきっかけになり、売り上げも向上。
「臼杵煎餅は好きだけど、手土産として渡すにはパッケージに高級感がないという声もあったんです。洋のテイストも取り入れたことで、若い消費者にも選ばれるようになりました」と後藤社長。さらに、臼杵煎餅を砕いて有機チョコレートと合わせた『チョコクランチ』も開発し、より多くの消費者ニーズに応えることが可能に。新ブランド商品によって、既存の商品も手にとってもらえる、という相乗効果も生まれました。
また、同社では生姜をそのまま仕入れて絞り汁を作っていることから、生姜の搾りかすが出ていましたが、用途がなく廃棄せざるを得ませんでした。長年その活用方法を模索していたところ、2016年に『ジンジャーパウダー』として商品化に成功。
“フード・アクション・ニッポン アワード2020”の受賞100産品にも選ばれ、現在は大分県内の有名ホテルにも採用されています。ジンジャーパウダーは百寿ひとひらの材料としても使われていて、売り上げが拡大したことから使用量も増加し、2020年には廃棄量0を実現しました。
※「K」は反転しているのが正式です。
“守るために、変わる”の取り組みのひとつが、2019年に立ち上げた新ブランド『IKUSU ATIO』
大分県産有機生姜100%の生姜を使用した特別な一枚は、4種の味を展開。ひとくちサイズに変え、パッケージも一新した『百寿ひとひら』
搾りかすを活用した『ジンジャーパウダー』は“フード・アクション・ニッポン アワード2020”の受賞100産品に選出。『ジンジャーシロップ』はオーガニックにこだわった
菓子製造からパッケージまで。OEMの受注も増加中
同社では、自社工場で原材料の加工から製造まで一貫しておこなっています。臼杵煎餅の製造以外にも、ジンジャーシロップやはちみつドリンクなどの清涼飲料を製造しているほか、貼り箱の企画や製造も自社でおこなっています。また、焼菓子製造やチョコレートコーティングの技術も持っていることから、OEM・ODMの依頼も増加しているそう。小ロットでの対応、スピード感、対応力も、多くの声がかかる理由です。
「自社で全てができる」からこそできあがったのが、『手塗り体験キット』です。コロナ禍で売り上げが減少する中、「なんとか活路を見いだしたい」と、これまで展示会などで培ってきた店頭販売の技術とパッケージを自社で製造できる強みをいかして後藤社長が考案。棕櫚の刷毛を使って職人と同様の手塗り体験ができることから、伝統製法を子どもに知ってもらう機会にもなり、「伝統を後世へ」という思いがカタチになった商品のひとつです。
自社工場で原材料の加工から製造まで一貫しておこなっている
「自社で全てができる」からこそできあがったのが、『手塗り体験キット』。棕櫚の刷毛を使って職人と同様の手塗り体験ができる
歴史に立ち返ったことで見えた、故郷への思いとさらなる未来への可能性
『臼杵煎餅を後世へ残る伝統菓子へ』。その思いと同じく大切にしているのが、地元臼杵への貢献です。中でも、臼杵の大生姜復活への思いは強く、「臼杵が生姜の産地だったからこそ臼杵煎餅が生まれました。消費が増えれば生姜の生産者も増えます。全ての商品に、臼杵産大生姜を使えるようになることが目標です」(後藤社長)と、地元活性化に向けて取り組みをはじめています。就農を希望する移住者の増加や、自然環境の保護など、広い視点から地元活性化を目指しています。
また、保存食として親しまれていたという歴史的背景から、現代の保存食に再構築し、保存食≒宇宙食という切り口から大分発の宇宙食を目指すという目標も。「今、宇宙食が注目されているからではなくて(笑)。臼杵煎餅の歴史を全国、世界、宇宙へと広めたいんです」(後藤社長)。試行錯誤を繰り返している最中ですが、その思いは商品が持つストーリーと共に、大きな可能性を広げてくれそうです。
臼杵の大生姜復活への思いは強く、就農を希望する移住者の増加や、自然環境の保護など、広い視点から地元活性化を目指している
「臼杵煎餅の歴史を全国、世界、宇宙へと広めたいんです」(後藤社長)
後藤製菓
PROFILE
- 設立年月
- 1919年6月
- 代表取締役
- 後藤 亮馬
- 事業内容
- 菓子製造、貼り箱製造、希釈タイプ清涼飲料製造
CONTACT
- 住所
- 大分県臼杵市深田118(石仏会館)
- TEL
- 0972-65-3555
- FAX
- 0972-65-3561
- メール
- info@usukisenbei.com
- HP
- https://usukisenbei.com/