自然と人、地域と未来をつなぐ「かかりつけ農家」
「Farm Sam」の挑戦合同会社 Farm Sam [ 大分県速見郡日出町 ]
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大分県日出町に拠点を置く「Farm Sam」は、半導体エンジニアから転身した髙松さんが立ち上げた農業法人。環境への負荷を抑えた自然農法を基盤に、日本ではまだ希少な「マイクログリーンズ」や、大分県の希少な在来とうもろこしを使用した「コーンスプラウト」を栽培し、注目を集めている。現在はホテルやレストランを中心に販路を拡大中。 福祉と連携した取り組みを行っているのも特徴で、2025年3月には大分県初となる「ノウフクJAS認証」を取得。自治体や障がい者・高齢者とともに地域に根ざした共生型の農業を目指している。
代表社員 髙松 修さん
半導体のエンジニアから農業の道へ
大分県日出町出身。関東で半導体のエンジニアとして働いていた髙松さんが農業を始めたのは53歳の頃。コロナ禍が転機となりました。
「当時は単身赴任中。ワンルームの部屋で一人、黙々とリモートワークを続けるうちに色々考えるようになったんです。子どもたちも独立したし、好きなことをしてもいいんじゃないかって。それで、早期退職募集に手を挙げました」。
2020年、地元・日出町にUターン。さて何をしようか、と考えたとき、頭に浮かんだのが子どもの頃から大好きだった「ものづくり」と、消費の時代を生きたからこそ関心があった「環境問題」。その中で“次の世代に残せることはなにか”と自問自答し、たどり着いたのが環境に負荷をかけない自然農法でした。Farm Samの特徴は、無農薬・無肥料・微生物土壌。後述する室内栽培のマイクログリーンズのほか、露地栽培で少量多品目を栽培しています。
驚きの栄養価。世界で注目を集めるマイクログリーンズ
現在、メインで栽培しているのは、日本では希少な「マイクログリーンズ」と呼ばれる小ぶりの野菜。発芽後8〜14日ほど経ち、“双葉から本葉が5mmほど伸びた状態(野菜の一生で最も栄養を蓄える時期)”で収穫します。室内でLEDライトを使って栽培するため、天候に左右されず、一年を通して収量が安定しているのも特徴です。
ちなみに、発芽後4〜5日ほどの“双葉”の状態で収穫するものを「スプラウト」、その後、マイクログリーンズを経て、発芽後1〜2か月ほどの“双葉から本葉が3〜4cm伸びた状態”で収穫するものを「ベビーリーフ」と呼びます。
マイクログリーンズの魅力はなんといっても栄養価の高さ。ビタミンC・K・E、ルテイン、カロテノイドが成熟野菜の約5倍含まれているほか、カルシウム、亜鉛、マグネシウムといったミネラルも豊富。海外ではコロナ禍以降、免疫力向上などの観点から研究が盛んに行われています。
種や栽培方法によって数値が変わるため、髙松さんは現在、「Farm Samのマイクログリーンズ」の栄養価を検証するための準備を進めています。
屋内でLEDを使って育てられるマイクログリーンズ。
アメリカでは農務省や大学で研究が進められており、すでにさまざまな健康効果が報告されています。
Farm Samのマイクログリーンズは、免疫力向上が期待されるアブラナ科の野菜(ブロッコリー、ケール、キャベツ、マスタード、ラディッシュ、ルッコラなど)が中心。サラダとしてはもちろん、多様な料理に彩りを添える一品としても需要が高まっています。
「今はまだ料理の飾りや彩りとして認識するシェフが多いですが、栄養価の高さも大きな武器になります。実際、海外では栄養価を全面に打ち出すPRが主流。近年、関心が高まっている健康や美容といったキーワードとも親和性が高いと思います」。
髙松さんの言葉通り、メニューに付加価値を添えることができるマイクログリーンズ。味や食感も良く、食業界にとって大きな可能性を秘めた食材であることは間違いありません。
そんなマイクログリーンズと髙松さんの出会いは、農業を始めて2年目の2022年まで遡ります。
運命を変えた「マイクログリーンズ」との出会い
髙松さんが目指したのは、農産物を通じて消費者にワクワクと元気を届けること。最初は、小さな畑で西洋野菜を含む少量多品目の栽培からスタートしました。
「妻がアメリカ人なので頻繁にアメリカに行っていたんですが…。向こうのスーパーに並ぶ野菜はカラフルで華やか、そして美味しい。初めて見た時のワクワク感、食べた時の感動は今も忘れられません。農業をやると決めた時、その気持ちを日本の人にも届けたいと思ったんです」。
市場ではなかなか見かけない西洋野菜は、やがて料理の彩りにこだわるシェフの目に留まり、畑を訪ねてくる人も増えていきました。
畑で野菜を見たシェフたちが、こぞって希望したのが成長し切る前の“小ぶりの野菜”。
シェフにとっては、「一皿に野菜全体をのせられる(彩りやデザインに使える)」「小ぶりのものは柔らかく、食べやすい」、髙松さんにとっては、「収穫サイクルが早い」「虫害が少ない」「販売価格は通常サイズと同じ」と、双方に大きなメリットがあったといいます。
見ているだけでワクワクする、カラフルで小ぶりなニンジン。ほかにも珍しい西洋野菜を扱っています。
小ぶりの野菜の需要を実感した髙松さん。「葉物にも同じようなニーズがあるのでは」と考え、調べていくうちに出会ったのが、当時すでに海外で注目を集めていたマイクログリーンズでした。
「畑に来てくれたシェフに『小ぶりの葉物があったら使いますか?』と尋ねたら、『もちろん。作ってくれたら買うよ』と言ってくれて。実は長年ニューヨークで働いていた方で、マイクログリーンズもよく知っていたんです。不思議な巡り合わせですよね」。
その後、さらに調べを進める中でたどり着いたのが石川県でマイクログリーン事業を展開する「バイオミメシス株式会社」。海外の栽培技術を日本の風土に合わせて改良するなど独自の手法を確立している企業で、「ここなら間違いない」と直感。すぐに連絡を取り、Zoomで何度も打ち合わせを重ね、技術提携を実現しました。
試行錯誤しながらマイクログリーンズのより良い栽培方法を模索。
Farm Samのマイクログリーンズは現在、レストランやホテルへの卸のほか、自社HPで販売中。
化学肥料を使わないマイクログリーンズの栽培において最も重要なのが土。土によって発芽や味、食感が大きく変わるといいます。
「いろいろ試した末、一番良かった新潟の有機JAS認証を受けた土を使用しています。ただ、輸送コストが高額で…。臼杵の業者さんと試行錯誤しながら、いい土の開発に取り組んでいます」。
自宅の8畳間から始まったマイクログリーンズの栽培は、多くの人の支えを受けながら、今も着実に進化を続けています。
大分県初の「ノウフクJAS認証」を取得。
地域共生型農業を目指して
Farm Samのもうひとつの大きな特徴が、障がい者と連携して農業を行う「農福連携」に取り組んでいること。2025年3月には、大分県初となる「ノウフクJAS認証」も取得しました。
さらに、拠点には空き家と閉園した幼稚園(借用予定)を活用。地域や自治体と手を取り合いながら、「未使用施設など地域資源の再利用」「障がい者や高齢者への就労機会の提供」「ホテル・レストランへの地産食材の提供」「宿泊者向けの農業体験」など、地域課題の解決や地域活性化にも一役買っています。
「マイクログリーンズは障がい者との相性が良いんです。屋内栽培ですから身体への負担が少ないうえ、天候に左右されることもない。今は就労継続支援B型事業所の方にお願いしていますが、もともと農業経験のある方々なので、本当に助けられています。ただ、就労時間に制限があるため、障がい者の方が入れない時間帯を地域の高齢者にカバーしてもらえたらと考えています」。
最終的な目標は、福祉事業所が独自で収益を上げられる仕組みを整えること。一番難しい販路開拓はもちろん、土づくりや商品開発、ニーズの調査などのノウハウを提供する“縁の下の力持ち”としての役割を担いたいと意気込んでいます。
地域共生型農業の未来について熱く語る髙松さん。
ノウフクJASとは、障がい者が農林水産業に就労し、農林水産物の生産工程に携わる取り組みであり、国も推奨しています。
大分県の宝を未来へ。
在来とうもろこしを使った「もちとうきびスプラウト」を開発
今年の3月には、大分の地で約250年間にわたり継がれてきた在来とうもろこし「もちとうきび」を使ったコーンスプラウト「紫ノの芽(しののめ)」の開発にも成功しました。
「食のイベントで大分県の在来種・もちとうきびの研究をされている大分高専の森田先生を紹介されたのがきっかけです。紹介してくれたのは、私が野菜を卸しているレストランの広報担当の方なんですが…。実はそのレストランのシェフは最初にマイクログリーンズの話をした方。不思議なご縁で話がどんどん進んでいきました」。
森田先生とはすぐに意気投合。その後、広報の人がふと口にした「森田先生が研究しているもちとうきびを使ってスプラウトができませんか」という言葉から、共同研究が始まりました。
完成したコーンスプラウト「紫ノの芽(しののめ)」の味わいは驚きの一言。口に含むと目が覚めるほど濃厚なコーンの甘味が広がり、誰もが感動せずにはいられません。
在来種だけに栄養価も非常に高く、展示会でも大手仲卸やバイヤー、有名レストランの料理長などから高い評価を得たといいます。
すでに「坐来大分」で提供されている、もちとうきびを使ったコーンスプラウト「紫ノの芽(しののめ)」。光を当てるとすぐに緑化するため、取り扱いには注意が必要です。
今後は農福連携の取り組みと並行して、お客様が本当に求めるものを提供する「かかりつけ農家」として、要望に合わせた商品開発にも取り組んでいきたいという髙松さん。全国のホテルやレストラン、エシカル商品の価値を理解してくれる企業へ周知を目指し、展示会や商談会にも積極的に参加しています。
「もともとエンジニアでしたから、挑戦は難しいほどワクワクするんです。特にシェフなどプロの要求に応えられた時の感動って本当にすごい。もちろん、事業性を考えることも大切ですが、“まずやってみる”という精神でいこうと思っています」。
現在は、県外の薬学博士の依頼で、機能性が高く希少な日本たんぽぽ、カラスノエンドウ、よもぎなどの研究にも着手。Farm Samから日本初の高機能食材が生まれる日も、そう遠くないのかもしれません。
立ち上げからまだ1年ほどですが、髙松さんの人柄に惹かれて多くの人が集い、輪が広がり、新しい動きが次々と生まれているFarm Sam。
これからも、人と人とのつながりを力に、地域に根ざした新しい農業の形を育てていきます。
合同会社 Farm Sam
合同会社 Farm Sam
PROFILE
- 設立年月
- 2024年3月(農園開園は2020年10月)
- 代表取締役
- 髙松 修
- 事業内容
- 露地栽培野菜(ジャガイモ、ニンジン等)、屋内土耕栽培(マイクログリーンズ、コーンスプラウト等)
CONTACT
- 住所
- 大分県速見郡日出町大字大神4127-19
- TEL
- 080-5262-5988
- FAX
- 0977-72-9502
- メール
- sam@farmsam.com
- HP
- https://www.farmsam.com

