香りがよくて旨い原種に近い椎茸に夢を託して農事組合法人湯布院きのこ村 [ 大分県由布市 ]
- カテゴリ
- 農産物加工
椎茸は菌床栽培が一般的になり、今や原木で栽培する生産者はわずか2〜3%。そんな中、原木栽培にこだわる『湯布院きのこ村』は、春秋のベストシーズンだけでなく1年を通して収穫できる栽培方法を確立しています。2020年には有機JAS認定も取得。有機栽培の生椎茸を販売するほか、濃い旨味を生かした椎茸ペーストも自社生産しています。
『湯布院きのこ村』佐藤聖二社長
栽培場所はいい香り!
椎茸の駒を打ったクヌギが並んでいる栽培ハウスに入って驚いたのが、その香り。思わず「きのこの香りがする!」と口に出してしまったほどです。「椎茸の原種に近い品種って香りがするんですが、嫌な香りじゃない。それが椎茸本来の香りなんです」と、佐藤社長。
ハウスに入ってもう一つ驚いたのが、椎茸の軸の太さ。太い軸の上には、厚みのある傘がのっています。「椎茸の軸も、品種によって全然違う。細めのものもあったり、色が黒っぽいものもある。品種が違うと、見た目も全然違うんですよ」。
『湯布院きのこ村』で育てているのは、1年を通して収穫できる品種の中でも味が良いことで知られるもの。椎茸は温度差を与えることで身が締まりおいしくなることから、ハウス内を夏は冷房で冷やしながら、冬は暖房で温めながら。おいしい椎茸の収穫のため、栽培方法にも工夫を凝らしてきました。
有機で大切に育てられた椎茸は、全体的にふっくら丸みがある愛らしいフォルム
フレッシュで心地いいきのこの香りがするハウスの中で育てられている
駒を打つクヌギから育てる
『しいたけ村』から30分ほど走らせてたどり着いたのは、見渡す限りのクヌギ山。訪れた日は曇りで少し霧がかかっていましたが、見晴らしの良い場所に立つと一面に美しい緑が広がっています。
そんな光景に感動している時、佐藤社長から驚きの言葉が。「元々、ここは何も植わってなかった。ずっと野焼きをしよった野っ原やったんです」。植林を始めたのは50年ほど前、佐藤社長の祖父と父親の代の頃です。「椎茸がよかった時代に、『あちこちで木を買うのも大変だから』と、もうかったお金を全部山に費やしたんですよ」。以前林野庁の調査が入ったことがあり、植林したクヌギ山としては日本で一番広い面積なんだとか。
「なんで大分が椎茸の産地になったかって言ったら、気候とクヌギらしいんですよ。クヌギは栄養分の高い木。静岡の一部と九州の一部にクヌギが多いから、椎茸に適していたみたいですね」。植林したクヌギが椎茸の駒を打つ原木になるまで、12、3年の年月を要します。
世界遺産にも指定されている国東半島の付け根にあたる、安心院町の山中にあるクヌギ林
見渡す限りのクヌギ山は、全て植林されたもの。「ここがうちの源なんですよ」と佐藤社長。
独自の栽培方法で1年を通して収穫可能に
「うちはじいちゃんと父親が椎茸栽培を始めて、もう70年以上やってる」。そんな椎茸農家の3代目は、椎茸を栽培するのに最も過酷な場所と言われる北海道での研修に参加し、本格的に椎茸作りに携わり始めます。以降、椎茸の商社系の会社に就職し東日本各地を回る生活に。「本当は教える立場なんやけど、教わることの方が多かった。大きな栽培システムも勉強できました」。その後、湯布院に戻り椎茸農家を継ぐことになるのですが「やっぱりね、学んだことを自分のものにするのに20年も30年もかかった。40年続けていま、やっと芽が出始めているんです」。試行錯誤の末、原木栽培で1年を通して収穫できる方法を編み出しました。
「今、椎茸の原木栽培にこんなに手間をかけている人がいないんよ。駒打ちから半年で椎茸を出荷できるまでにするっていう技術も、他にはないと思う」。それこそが、椎茸のために学び、経験を積んだ結果。「30年積み重ねてきたからこそ、分かることともある。味もそうですよね」。
多くの経験を重ね、試行錯誤の末にできた椎茸
周年収穫可能な種駒を選び、春秋のベストシーズンだけでなく1年を通して出荷している
そのおいしさにびっくり
おいしい椎茸を追い求めてきたからこそ、「おいしく食べてほしい」という思いもひとしお。以前、丹波篠山の松茸生産者から教えてもらったのが、椎茸の軸の方を上に向けて焼く「炙り焼き」。理想は炭火焼きです。少し塩を振り、大分特産のカボスをぎゅっと絞っといただいた時の、そのおいしさと言ったら。「椎茸ってこんなにおいしかったの?」と、驚いてしまうはずです。太い軸も捨ててはいけません。同じように塩を振って炙って(またはグリルで焼いて)縦に割いていただけば、椎茸の濃い旨味を実感。傘とは違う歯ごたえの良さも堪能できます。
この“とっておき”の椎茸の食べ方を、地元湯布院で高級旅館を営む友人にも伝授。『きのこ村』の椎茸を使った炙り焼きは、今ではその旅館の名物料理の1つになり、「軸までおいしく食べる」ことが当たり前になっています。
「昔はね、軸が大きい椎茸は嫌われよった。軸は捨てるもんやったからね。でも友人の旅館の影響もあって、軸もおいしく食べることができるようになった今、軸が太いのが好かれるようになったんです」。
軸が太く旨味の濃い『きのこ村』の椎茸は、今や全国から問い合わせがあるほどの人気になりました。
収穫した椎茸は手作業で選別。いしづきも全て切り落とし、汚れなどもブロアーで丁寧に払い落とす
家庭では、このままグリルで。傘を反対に向けて網に乗せ焼いているとひだの上に水滴のような滴が出てくるので、これが食べ頃のサイン
おいしい椎茸を使いやすい加工品に
そんな椎茸の旨味を余すことなく引き出し、簡単に使えるように加工したのが「椎茸ペースト」。県内の食材にこだわるイタリアンシェフに協力を仰ぎながら、「天然素材だけを使ったレトルト商品を作ろう」と取り組んだのがきっかけでした。生だけでなく、戻した乾椎茸、冷凍と、3種類の椎茸を使い、旨味を存分に引き出しています。現在は「おいしい椎茸の旨味そのままの味を届けたい」と、コンセプトから考え直し、冷凍で販売できるオリジナルのペーストを販売。「生も乾しも、冷凍も使ってるから、味に変化が出て、ハーモニーができるんですよ」。
ペーストは、牛乳と生クリームと合わせればポタージュに、オリーブオイルと酢を合わせ少し塩を加えればドレッシングに。炊きたてのご飯に醤油とバターと一緒に混ぜ合わせれば、香り高いまぜご飯が完成します。オムレツやシチューの隠し味にも使える、お料理の強い味方。万能調味料としても重宝します。
椎茸ペーストのおいしさは、プロの料理人も認めるところ。『ななつ星』でも、椎茸ペーストをふんだんに使った焼き菓子が前菜として提供されています。
クリームチーズを塗ったバケットにペーストをのせてオリーブオイルをたらせば、あっという間にブルスケッタが完成
パスタと和えれば、絶品のきのこスパゲッティに。ニンニクやベーコンを加えるなど、アレンジも自在
『ななつ星』の前菜で提供されている、フランス料理店「La Verveine」による椎茸ペーストを使った焼き菓子。芳醇で味わいも豊か、赤ワインとの相性も抜群です
椎茸ペーストは有名旅館の粒マスタードや、フードディレクターの手によるミートソースにも使われ、商品化されている
大分県産椎茸の復権を 後進に夢を与えたい
旨味の濃い椎茸の中でも、植菌してから最初に収穫する“一番採れ”の椎茸だけを使った贈答用セットも、この冬から登場。最初に採れる椎茸は、大切に育てたクヌギの香りや栄養をしっかりと蓄えているため、香りも旨味も絶品です。傘も大きく丸々と太い軸も、見るからにおいしそう。そんな超特別な逸品は『食文化』サイトで購入できます。
そして今、佐藤社長はさらにおいしい椎茸を求め、種駒生産の『森産業』とも協力しながら原種により近い椎茸の復活に取り組んでいます。「昔作っていた低温菌の品種、121を復活させたい。今中国で椎茸が有名になって栽培が広まっているのも、この121がおいしいキノコだったからからなんです。風味もまろやかで、旨味も味の濃さもまったく違うんですよね」。
「大分の産業としての椎茸栽培を復活させたい」とも。自らが長年かけて編み出した生産システムも、厭わず伝授したいと考えていると言います。「農業で夢を持てるようにしたいけど、まだ成功はしてない。でも、やっぱり夢って大事と思うんですよ」。まだ夢の途中。夢を託した椎茸と共に邁進する日々は続きます。
植菌してから最初に収穫する“一番採れ”の椎茸だけを使った、大きく味も絶品の贈答用セット
「農業で夢を持てるようにしたい」。椎茸愛が深く、椎茸のことを語り始めると止まらなくなる佐藤社長
農事組合法人湯布院きのこ村
PROFILE
- 代表取締役
- 佐藤 聖二
- 事業内容
- 農産加工
CONTACT
- 住所
- 大分県由布市湯布院町川西830-1
- TEL
- 0977-84-5617
- メール
- happymarket@luck.ocn.ne.jp
- HP
- https://www.yufuinkinokomura.com/