醤油屋から調味料屋へと進化
加工品で地元の魅力を発信有限会社田中醤油店 [ 大分県中津市 ]
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明治38年から続く老舗醤油店として、地域の食卓を支えている『田中醤油店』。創業以来変わらぬ製法でつくられる醤油や味噌をはじめ、近年は加工品開発にも力を入れていて、全国からOEM依頼が増加中。トレンドをとらえたアイデアと、長年の経験による製造技術によって、ヒット商品を生み出しています。
代表取締役社長 田中宏さん
創業明治38年。4代続く老舗醤油店
初代の田中久造さんが味噌醤油蔵を創業した当時、中津市内には20軒ほどの味噌醤油蔵があり、「人口の割合に対してはとても多かったと思います」とは、4代目で現在代表取締役社長を務める田中宏さん。2025年時点で120年続く老舗として歴史がつながれてきました。
田中社長は東京農業大学の醸造学科を卒業後、県外の醤油屋に勤務したのち、25歳で帰郷。叔父にあたる3代目の敏彦さんから後を継いだのが29歳の時でした。「私が20歳のときに父は亡くなりましたし、3代目も手取り足取り教えてくれる人ではありませんでしたから。大学で学んだことや卒業後に働いていた醤油店での経験を生かしながらも、手探りな状態でした」。
家業を継ぐにあたりまず実践したのは、倉庫同然だった蔵のそうじとペンキ塗り。現在その場所は、醤油、味噌、加工品などを販売する小売店として、地元の人に愛されています。
店頭では醤油ソフトクリームも販売。高校生など若い世代の来店も増えたそう。
多彩な加工品が並ぶ店内。これらの商品をきっかけに、昔ながらの醤油を手に取ってくれるお客さんも増えています。
伝統をつなぐために、醤油屋を知ることからスタート
田中社長が帰郷した当初は、顧客のところへ配達に出向く昔ながらの“おきまわり”と呼ばれる販売方法が主流でした。しかし最盛期に比べると顧客も減少し、「このままでは商売が成り立たなくなるかもしれない」と感じていたそうです。
「まずは他の醤油屋さんが何をしているかを知ろう」と、当時は地域にたくさんあった味噌醤油蔵を訪ね歩いたそうです。営業手法や取扱商品を見てまわるのと同時に、不要な道具があれば引き取らせてほしいとお願いしました。「とにかく何か動かなければと夢中でしたけど、今思えば若かったからできたことですね(笑)。みなさん快く受け入れてくれました」と振り返ります。時代の流れから閉業する蔵もあり、「大切な道具を受け継いでくれるなら」と、タンクや蛇管、桶などの道具、不要なものを譲ってくれたそうです。この行動は、当時の田中社長の頭の中に、「できるだけ設備にお金をかけずに、新しい商品づくりに挑戦して経営を立て直したい」という思いがあってのことでした。
昔ながらの古い道具は、今となっては貴重な逸品。初心を思い出すためのアイテムでもあります。
一人のお客さんの声から生まれた、初めてのOEM
新たな一歩を模索していたこの頃、蔵の一角に醤油や味噌の小さな販売スペースを設けました。これによって、新しいお客さんもちらほら。その中の一人から「柚子を使った加工品を作れないか?」と相談されました。
実は当時、加工品第一号として“ぽん酢”の試作を進めていた最中でした。相談されたのは、柚子胡椒を液体化した商品を作りたいというもの。そこで自社の素材を使い、保存がきくように加工して試行錯誤した結果、見事商品化。「OEMってこういうことかと、なんとなく感覚をつかんだきっかけでした」。この出来事は、現在多くのOEMを受け入れる会社としての成長のはじまりでした。
「おいしい!と言ってもらえる商品ができたときは、何度味わってもうれしい瞬間ですね」と田中社長。
「醤油屋」から「調味料屋」へ。4代目の挑戦で伝統に革新を
日頃の市場調査のみならず、展示会にも積極的に参加し、業界の動向やトレンドをとらえることを意識してきた田中社長。知り合いの問屋さんから、「スーパーでは、大手の商品があれば充分です」と言われたこともあったそうで、「醤油屋としてはかなりショックでしたけど、これが現実だと受け止めました」。広い視野で業界を取り巻く環境を見つめた結果、「醤油や味噌だけ作っていればいい時代ではない。役立つものをつくるのが醤油屋なのでは?と考えるようになりました」。
新しいことに挑戦し続けてきた田中社長にとって、自社商品を開発することは自然な流れだったのかもしれません。はじめての加工品はドレッシング。九州産の農産物を使って、地域ならではの特色を全面に出して付加価値を高めることを意識したそうです。パッケージにもこだわり、「手に取ってもらえる商品」を目指しました。
かぼす、大葉、柚子ごしょうなど、豊富なラインナップがギフトにも人気のドレッシング。
地域性の高い商品を。『ジェノベーゼ風大葉ソース』が誕生
店の名を広める契機のひとつになった商品が『ジェノベーゼ風大葉ソース』です。きっかけは、当時はまだ広く知られていなかった“大分県産大葉”を栽培している生産者の植木農園さんから、「規格外の大葉を活用できないか」と相談を受けたこと。「加工品を通じて、大分県が大葉の一大産地であることを周知したい」と考えた田中社長がヒントを得たのが、バジルを使うジェノベーゼパスタです。「大葉で代用できるのでは?」と思い商品開発に着手しました。
大葉の色や香りを損なわないように工夫されていて、ジェノベーゼソースと同様の使い方ができるので、商品名はジェノベーゼ“風”に。かけるだけ、あえるだけでおいしい一品が作れる加工品は、「役立つものをつくりたい」という思いがカタチになった商品といえます。
日本野菜ソムリエ協会主催の「調味料選手権」で、2011年に新定番調味料の優秀賞を受賞。多くのメディアでも取り上げられ、大分みやげとしても定着しつつあります。
パスタをはじめ、パンに塗ったり、肉に絡めたり、万能に使える『ジェノベーゼ風 大葉ソース』。
大分県産大葉を使った“ジェノベーゼ風シリーズ”のひとつ、『大葉胡椒』も人気。
加工品を通じて、地域を活性化したい
2023年には、地元高校生とのコラボ商品として『旨辛トマメン』の開発に携わりました。地元産のフルーツトマトの規格外品を使ったトマトスープを開発し、トマトラーメンに。「新たなご当地グルメとしてだけでなく、中津産フルーツトマトのおいしさを知るきっかけになればうれしい」と期待を寄せています。
パッケージや、“トマメン”というネーミングなど、関わったさまざまな人たちのアイデアが詰まった『旨辛トマメン』。
同社の強みは、商品開発や製造だけではなく、材料となる野菜の加工まで一貫して請け負えること。種抜き、すりおろし、皮むき、搾り、洗浄、カット、加熱、冷凍などが可能な専用機器を完備しているので、生産者から直接相談を受けることも多いのです。ロットもできる限り最小限で受注し、納得いくまで何度も試作をします。
ラベル張りは手作業で。売れる商品にするために、パッケージにもしっかりこだわります。
加工品の開発は決して簡単ではありませんが、「大分を代表する逸品を作りたいという強い思いを持つ人と一緒に商品づくりをしてみたい」と前向きです。「大分から全国へ」に挑戦し続けている田中社長の次なる目標は、「日本から世界へ」。すでに一部商品は海外へも進出していますが、さらなる拡大に向けて世界を見据えています。伝統という強い根を張り、革新によって枝葉を広げていく。これからも「老舗醤油屋だからできること」を大切にしていきます。
伝統があるからこそ、改革ができる。原点を大切にしながら進化を続けます。
有限会社田中醤油店
PROFILE
- 設立年月
- 昭和41年3月
- 代表取締役
- 田中 宏
- 事業内容
- 醤油・みそ・麹・酢・みりん・ポン酢・ドレッシング・つゆ・もろみ・食油等の製造販売
CONTACT
- 住所
- 大分県中津市大字犬丸1661
- TEL
- 0979-32-0041
- FAX
- 0979-33-0041
- メール
- tanakasc@bridge.ocn.ne.jp
- HP
- https://www.moromi.jp/

