小さな箱に宿るおもてなしの心。
京都から大分へ、そして世界へ有限会社オフィス小野 [ 大分県大分市 ]
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40年の歴史を持つ『京屋本店』。京都で学んだおもてなしの心を大分の地で形にし、 仕出し弁当や婚礼料理などを手掛けている。 現在は自社農場「京屋の森」での食材生産や、看板商品「クリームチーズ西京焼き」を通じた全国・海外展開など新しい挑戦にも注力。京都の伝統と大分の風土、そして職人の手しごとが調和した“おもてなしの味”を未来へとつないでいくために次代を担う子どもたちへの食育や、若い料理人の育成にも積極的にも取り組んでいる。
統括店長 小野峻助さん
京都のおもてなしを大分に届けたい
『京屋本店』の原点は、代表が修行先の京都で出会った一折のお弁当でした。
京都のおもてなし文化を体現したようなそのお弁当を目にしたとき、「小さな箱の中で、こんなにもおもてなしの心を表現できるのか」と深い感銘を受けたといいます。
そこから「京都のお弁当を大分に広めたい」と腕を磨き、昭和59年、大分に念願のお店をオープン。ただ、当時はまだ“日常使いのお弁当”が主流で、華やかなおもてなし弁当は馴染みのない存在。まずは地域に親しまれる家庭的なお弁当を販売しながら、少しずつ信頼を築き、やがて理想とするおもてなし弁当へとシフトしていきました。
「25年ほど前かな。トキハに出店した頃から、懐石風の仕出し弁当がメインになりました。ようやく父の思いが実を結んだんです。今は中島の本店、トキハ大分店、別府店で販売しています」
そう語るのは、2代目の小野さん。現在は、2025年4月にオープンした、クリームチーズ西京焼き専門のGINZA SIX店(後述)を任され、東京と大分を往復しながら多忙な日々を送っています。
四季折々の色彩を映す折詰。一品一品におもてなしの心が宿っています。
京屋本店の歩みを物語るお弁当の包み紙の数々。
コロナ禍をきっかけに原点回帰。自社農場「京屋の森」をオープン
大分で安定した地位を築いていた同社ですが、2020年、思わぬ試練に直面しました。そう、多くの飲食店が大打撃を受けた新型コロナウイルスの蔓延です。
京屋本店も例外ではなく、売り上げは激減。一時は「会社をやめよう」とまで考えたといいます。しかし、考え悩む時間は「飲食店としてどうありたいのか」を改めて考えるきっかけにもなりました。
「私たちの理想は、自分たちで育てた最高の食材で、最高の料理をつくること。それが究極のおもてなしだと思っています。でも現実は日々の忙しさに追われ、難しい。それがコロナ禍で時間ができ、『どうせ未来が見えないならやってみよう』となったんです。ピンチの中で知恵を絞った感じですね」。
その想いを形にするために立ち上げたのが自社農場「京屋の森」。大分市佐野にある約3,000坪の広大な敷地に田んぼや畑、養鶏場などがあり、野菜、米、鶏、たまごなどを生産しています。
「京屋の森」にある漆喰蔵とイチョウの木
「京屋の森」には、畑、田んぼ、竹やぶ、森林、畦道など日本の美しい原風景が広がっています。
今でこそ多くの実りを生み出している「京屋の森」ですが、最初は何もないところからのスタートでした。市街化調整区域であったため、電灯もなければ、バスなどの公共交通機関も通っていない。小野さんはじめ、携わるスタッフの農業経験もなし。近隣の農家さんに教えを請いながら土を耕し、害獣対策を学び、古民家を手作業で修復し…少しずつ形にしていったといいます。
現在は自社で育てた食材に加え、近隣農家からの仕入れも行い、地域とともに支え合う“新しい食のつながり”を育んでいます。
野菜、養鶏、お米のほか、木の芽、落花生、唐辛子などクリームチーズ西京焼き(後述)の材料も育てています。
もうひとつ、京屋の森には大きな役割があります。それは“学び”です。
「今はネットを活用すればどんな食材も簡単に手に入る時代ですが、料理人は食材の背景を知るべきです。たとえば、自分が調理する鶏がどうやって育っているのか。命の意味を知れば自ずと食材の扱い方や調理法が変わります」。
その言葉通り、「京屋の森」は“命を育む場”としてスタッフの研修など人材育成の拠点としても活用されています。
京屋の森から広がる可能性
「ななつ星in九州」への提供、そして「GINZA SIX店」オープンへ
自社で食材を育てる「京屋の森」の取り組みは外部からも高く評価され、JRのクルーズトレイン「ななつ星in九州」の料理提供へとつながりました。その中でも一際注目を浴びたのが「クリームチーズ西京焼き」です。
「ななつ星は、九州各地のお酒を楽しむための列車でもあります。最高のお酒と最高の料理があるなら、最高のおつまみも必要なんじゃないか。そんな発想で始めました。クリームチーズ西京焼き自体は昔からありますが、うちは料理屋ですからそこにトッピングという一手間を施すことで他にはない付加価値をプラスしています」。
見た目も美しいクリームチーズ西京焼き。現在はスティックタイプ、ペーストタイプ、フォアグラ西京焼きなど多彩なバリエーションを展開しています。
厳選したクリームチーズを自家製の西京味噌でじっくりと熟成させ、職人が丁寧に焼き上げた一品は、濃厚かつ深みのある味わい。さらに、「京屋の森」で育てたこだわりの産品をトッピングし、風味も彩りも唯一無二の逸品に仕上げています。
独特の塩味はワインや日本酒と好相性で、「ななつ星in九州」でも大きな評判を呼びました。
その反響を受け、今まではお弁当の1品にすぎなかったクリームチーズ西京焼きを単独で“おもたせ”として商品化。美しい見た目と上質な味わいが多くの支持を得ています。
こうした評判は県外まで広がり、なんとハイブランド商品を中心に扱う商業施設・GINZA SIXから声がかかるまでに。今年4月にはクリームチーズ西京焼きを専門に取り扱う「GINZA SIX店」をオープンし、すでに売れ行きも好評です。
コロナ禍から始まった「京屋の森」の取り組みは、「ななつ星in九州」への料理提供、そして「GINZA SIX店」オープンへとつながり、県外展開が難しいお弁当とは別軸の“おもたせ”という新たな可能性を切り拓きました。京屋本店の未来を広げる一歩になったと言っても過言ではありません。
今年4月にはクリームチーズ西京焼きを専門に取り扱う「GINZA SIX店」をオープン
全国、そして世界を見据えながら、地元・大分で何ができるかを考える
今後は、地元・大分で長年受け継いできたお弁当づくりを大切に続けながら、「クリームチーズ西京焼き」を全国へ広めていきたいという小野さん。海外からの問い合わせも増えており、海外展開も視野に入れています。
もちろん、GINZA SIX店の手応えも十分。海外のお客様が多く、英語を話せるスタッフの配置や英語表記の看板整備など、受け入れ体制の強化もすでに行っています。
味わいはもちろん、日本料理に息づくこだわりと美しく繊細な職人技、京都の特注品である趣ある木箱(ななつ星in九州の分は日田杉を使用)など、海外の人々の心をつかむ要素が詰まった「クリームチーズ西京焼き」。 “お酒を楽しむ文化”をもつヨーロッパを中心に、今後さらに広がっていくに違いありません。
お子さん3人の父でもある小野さん。次代を担う子どもたちに“食の尊さ”と“命をいただくことの意味”を伝え続けています。
小野さんが全国、海外を見据えているのは、自社の発展だけでなく、地元・大分に対する深い思いがあるからだといいます。
「人口減少に伴い、将来的に私たちのマーケットは確実に小さくなります。このままでは、会社を存続することはできても、成長は難しい。だからこそ大分の外にも目を向け、そこで得た成果を大分に還元できたらと考えています。私個人の思いとしては、特に次代を担う子どもたちや学生、食業界を志す人のために何かできたら嬉しいですね」。
すでにPTA活動や大学での講義などを通じて、子どもたちや若い世代に“食の大切さ”を伝えるほか、給食の献立立案への協力や、料理人が誇りを持って働ける環境づくりにも尽力。鳥インフルエンザの影響で一時休止している「京屋の森」の見学も、収束後には再開を考えているそうです。
「京屋の森は命を学ぶ場所です。たとえば、卵拾い。売られている卵はきれいですが、実際は鶏糞もついているし、鶏から突かれることもある。でも、そんな経験こそが命の意味、大切さを知り、食に興味を持つきっかけになるんです。自分の子どもには体験させていますが、それをより多くの子どもに共有したいと思っています」。
その純粋な思いこそが、大分の食業界を変えていく、小さくて大きな一歩になるのかもしれません。
有限会社オフィス小野
PROFILE
- 設立年月
- 1984年3月
- 代表取締役
- 小野 忠由
- 事業内容
- お弁当・仕出し
CONTACT
- 住所
- 大分市中島東3-4-18
- TEL
- 097-538-2266
- FAX
- 097-537-8282
- HP
- https://www.kyouyahonten.com

