素朴な「サンチー」が全国で愛されるパンに有限会社つるさき食品 [ 大分県大分市 ]
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今や『つるさき食品』の代名詞として知られることになった「三角チーズパン」、愛称“サンチー”。一時は、「お店で買えない!」と話題になり、幻のパンとも呼ばれていまいした。そんなサンチーが売られていたのは、大分市内東部エリアにあるわずか4つの高校の購買。高校生に愛され続けてきた購買パンは今、東京のイベント出店でも行列ができるほどの人気パンになっています。
代表取締役社長 足立洋三さん
サンチーってどんなパン?
サンチーは、食パンにチーズクリームを塗り、もう一枚のパンと挟んで三角にカット。そこにメロンパンのクッキー生地のような甘い生地を纏わせて、こんがりと焼き上げた菓子パンです。35年前、高校の購買で販売するパンとして誕生しました。
「先代は、元々パン工場の工場長だったんです。サンチーを作った時は『甘いだけじゃ食べにくいから、甘じょっぱい味に仕上げたい』と、中に挟むチーズクリームを試行錯誤して、外の甘い生地と組み合わせることにしたそうです」。さらに、購買で購入する高校生の意見を聞きながら、「どうしたらもっと食べやすくなるか」と探り、『つるさき食品』のサンチーが完成しました。
今でも、「買ってくれた人をガッカリさせたくない」と、チーズクリームを塗るときはパンの隅々にまでみっちりと。3つの角のどこから食べても「一口目から、チーズクリームが入っているようにね」。
これがサンチー!
自社で焼いた食パンをサンドイッチ用より少し厚めにカット
こだわりのチーズクリームを満遍なく塗る
チーズクリームを挟んで三角にカットするから「三角チーズパン」。甘いクッキー生地を纏わせて焼き上げ、完成
購買の人気パンに、突然スポットライトが?
わずか4,5年ほど前までは、大分市内の4つの高校の購買でしか販売されていなかったサンチーが突然表舞台に出ることになったきっかけが、地元のタウン誌のパン特集。「購買パン」コーナーで紹介されると、一気に話題になります。タウン誌と地元テレビ局のコラボ企画「パンマルシェ」に出店すると、サンチー求めオープン前から長蛇の列ができました。その結果、開始30分で売り切れという異例の結果に。「販売には、いつも購買で販売していたベテランスタッフに行ってもらいました。いくら混んでいても、右手で商品を渡しながら左手でちゃんとお金をもらっているんですよ(笑)。ベテランさんたちの客捌きもすごかったんだと思います」。あまりの人気ぶりに、社長やベテランスタッフも驚いてしまったそうです。
その後は、地元スーパーの物産展にも初出店。そこには高校時代に購入していた卒業生が訪れ、「懐かしい!」と声を上げていたとか。「購買以外で売るなんて、発想もしていなかった」から一転、県内各所で開かれるマルシェなどパン関連のイベントにも声がかかるようになりました。
サンチーといえば、スタッフのみなさんが「ばんじゅう」と呼ぶ、この『つるさき食品』のケースがセット
購買でもイベントでも、この「ばんじゅう」に並べて販売している
サンチーの中にはチーズクリームがみっちり。どの角から食べても一口目からチーズクリームを味わえ、甘い生地の甘じょっぱさを楽しめる
働き方を変えたい。製造現場もワクワクしたい
サンチーにスポットが当たり製造数も増える中、足立社長が気になっていたのは従業員の皆さんのモチベーション。当時は、給食用のコッペパン、購買用の複数種類のパン、さらにお弁当、仕出し、おせちと、工場は365日休むことなく稼働していました。「工場内では、早朝からコツコツした作業が続きます。仕事が終わったら帰って、また明日。そんな毎日の中で、『工場で働く私たちも、もっと楽しんでいいんじゃない?』って」。働き方の改善を考えはじめます。
デザイナーでもあり、現在は企画広報も担当する友末昭宏部長の入社をきっかけに、「今までコツコツやってきた食に対して、何かイノベーションできないか」と、話し合いも深まっていきました。
そんな時、東京駅で行われた『駅ナカパンフェスティバル』への出店の機会を得ます。また、県内で開催された百貨店などのバイヤーに向けた商談会では、多くの百貨店から「うちに出店して」と問い合わせ受けることに。「阪急百貨店本店のバイヤーさんが『この商品は売れるよ!』って言ってくださったんです」。県外への出店も、積極的に行うようになりました。
2022年の東京駅の出店ではサンチー待ちの行列ができ、阪急うめだ本店では毎回50個予約する常連さんも。有名百貨店への出店は、従業員の皆さんのモチベーションアップにもつながっているといいます。
毎日朝早くから働くスタッフの方々の働き方改善や、モチベーションアップにも取り組んでいる
東京駅でも大阪の阪急でも、サンチーの販売スタイルはいつも一緒。おなじみの「ばんじゅう」に並べて
イベントや購買以外の販売所で掲示するポップなどは、すべて友末部長がデザイン・制作を担当
あえて扱う商品を絞って、特化することで特色を出す
しかし「売上を求めて従業員に負担をかけることはしたくなかった」と、足立社長。「作業を安定させながら、アクションを起こすにはどうすればいいか」と考えていた時、近隣の農産物を販売する物産館でパンを販売することに。そこで経験することになったのが売れ残り。そんな中、ここでもサンチーが人気に。出荷数を増やしても、サンチーが売れ残ることはありませんでした。「これならいける」。物産館での販売が、『つるさき食品』が作るべき商品を決断するきっかけとなりました。
その後事業の選択と集中をすすめ、現在は給食用のコッペパンとサンチーの2種類のみの製造に特化。今ではサンチーを作るためだけに食パンを焼いています。「せっかく作ったパンを、すぐに切って加工しちゃうんですからね。普通のベーカリーさんなら、これを量産しようとは思わないでしょうね」と足立社長は笑います。
サンチーを作るためだけに、毎朝たくさんの食パンを焼き上げる
本社事務所の受付でも、焼きたてのサンチーを販売中。
本社では「サンチー」だけでなく、なかなか出合えないチーズクリームとあんこを挟んだ「あんチー」も購入できる
あんチー
サンチーのおいしい食べ方が、次の一手の大ヒントに
作る商品を絞ることで、サンチーの製造数や出荷場所の増加も可能に。昨年の11月からは大分駅のにわさき市場でも買えるようになりました。「やっと、“大分”のご当地パンって言えるね、って(笑)、話しているんですよ」と、足立社長。
首都圏エリアのデパートなどの出店依頼も後を絶ちません。ただ、サンチーは常温商品のため夏が苦手。品質を優先し6月〜9月は県外への出荷を止めていますが、その間も出店依頼は舞い込みます。「どうにかできないか」と思案していたところ、社長を含め、サンチー作りに携わる従業員のほとんどが、当然のようにやっていた冷凍保存が次なる一手のヒントに。
「作りたてを食べてほしい」という思いから、これまでは冷凍販売の発想すらなかったそうですが、実際は自分達も冷凍し焼き直して食べていたことに気づきます。「実は私、一度冷凍をして焼き直した後が、1番好きなんです。焼き直すと、中のチーズクリームがトロッとなって、周りはサクサク。うまいですよ!」。
また、「1番おいしい焼きたてを味わってもらいたい」と、完成品の冷凍化だけではなく、最終的な焼き上げを家庭で行う“仕掛かり品”の商品化も検討中です。幻のパンだった「サンチー」が、県外でも「焼きたて」を味わえるまでもうすぐ。素朴さと懐かしさが魅力の購買パン「サンチー」が、新たな一歩を踏み出そうとしています。
リベイクすれば、周りの甘いクッキー生地はサクサク、チーズクリームはトロッと柔らか。焼きたてのような味わいに
有限会社つるさき食品
PROFILE
- 設立年月
- 昭和33年9月19日
- 代表取締役
- 足立 洋三
- 事業内容
- 学校給食用パンや三角チーズパンの製造・加工・卸販売
CONTACT
- 住所
- 大分県大分市大字迫1002番地
- TEL
- 097-521-8847
- FAX
- 097-521-9125
- メール
- tsurusaki.koho@gmail.com
- HP
- https://www.instagram.com/tsurusaki_foods/